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【論文解説】低グリコーゲン状態でのランニングが持久力を2倍にする理由

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かぴまる

月間走行距離をこれ以上増やすのは厳しいけど、もっとスタミナをつけたいなあ。効率良くトレーニングするための秘訣みたいなもの、あったら知りたいなぁ。

たとえば、

  • 毎日走っているけど、レース後半に失速してしまう・・
  • 月間走行距離をこれ以上増やせない・・
  • けど、もっとスタミナを強化したい・・!

こうした悩みを抱えている方もいるのではないでしょうか。

スタミナを強化するための大原則として、『トレーニング前には炭水化物(糖質)をしっかり摂取して、エネルギー満タンの状態で質の高い練習をこなす』というのが、これまでの常識とされてきました。

エネルギーが不足した状態で走っても、ヘロヘロになって良い練習ができないと考えられていたからです。

しかし、近年の研究では、『あえて体内の糖質が枯渇した状態でトレーニングを行うほうが、筋肉が劇的に強化され、持久力がアップする』という、これまでの常識を覆す内容に注目が集まっています。

それがこちらの論文↓

本記事では、現在のスポーツ界における『Train-Low, Compete-High(低糖質で練習し、高糖質で試合に臨む)』というトレンドの決定的な科学的根拠となった論文について解説します。

この記事を読めば、普段のトレーニングの質が変わり、走行距離を増やさずにマラソン後半の粘り(30kmの壁を突破する力)を磨くヒントが得られるはずです。

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目次

【超ユニークな実験】『1人の人間の左右の脚』を比較!

【超ユニークな実験】『1人の人間の左右の脚』を比較!

スポーツ科学の実験を厳密に行う上で、常に問題になるのが「被験者の個体差」です。

例えば、

  • A:糖質満タンで走るグループ
  • B:糖質制限して走るグループ

という実験を行うとします。

この場合、個人のもともとの運動能力、体質、遺伝、あるいは日頃の食事内容の微妙な違いといったものが、結果に少なからず影響を与えてしまいます。

そこで研究チームは、<健康な男性7人を集め、彼らの『右脚』と『左脚』で全く異なるスケジュールでトレーニングを行わせる>という、片脚ずつのトレーニングモデルを採用したのです。

左右の脚がこなす「総運動時間」や「設定負荷(キック運動のワークロード)」は完全に同じ設定です。

これによって、血液中のホルモン濃度や食事の内容といった全身的な条件を同一にしたまま、「筋肉のローカルな環境(糖質があるかないか)」の違いだけがもたらす影響を完璧に比較することに成功したのです。

10週間の実験期間中、左右の脚は2つのプロトコルにランダムに分けられてトレーニングを行いました。

①:High(高グリコーゲン)脚:毎日1回トレーニング

毎日1時間、最大負荷の75%の強度でキック運動を行います。

次の練習までに24時間の間隔が空くため、通常の食事(炭水化物中心の Western diet)を摂ることで、筋肉内の糖質(筋グリコーゲン)が毎回十分に回復した状態(High)でトレーニングを開始できます。

②:Low(低グリコーゲン)脚:2日に1回、1日2回トレーニング

2日に1回のペースで、「1日に2回(1時間×2本)」のトレーニングを行います。

1本目の運動(午前)では、1時間の運動で糖質(グリコーゲン)をしっかりと消費させます。

その後休憩を2時間取りますが、その間は絶食(水はOK)とします。

そして午後、2本目の運動を行います。

1本目で糖質が消費され、さらに休憩中に食事を摂っていないため、筋肉内の糖質が枯渇した状態(Low)のまま2本目の1時間運動を開始することになります。

実験では、左右の脚が10週間でこなした総運動時間と運動強度は完全に同じ。異なるのは、『トレーニングの半分を、筋肉がエネルギー不足(低グリコーゲン)状態でこなしたかどうか』ということです。

10週間に及ぶトレーニングの驚くべき結果

10週間に及ぶトレーニングの驚くべき結果

10週間のトレーニング期間を終えた後、被験者たちの左右の脚には決定的な差が現れました。

主な結果は、以下の3つです。

10週間後の驚くべき3つの結果

  • 限界までの運動持続時間が約2倍に向上
  • 有酸素エネルギー回路の働きが向上
  • 筋肉中の糖質貯蔵量が向上

それぞれ順番に見ていきましょう。

①:限界までの運動持続時間が約2倍に向上

トレーニング前後に、それぞれの脚の『最大筋力(最大負荷)』を測定したところ、その向上率は左右の脚で全く同じでした。

しかし、本当に驚くべき結果が出たのはその後の持久力テストです。

『最大負荷の90%』というキツイ強度で「限界(疲労困憊)が来るまで何分動き続けられるか」をテストしました。

すると、毎日糖質満タンで練習した「High脚」も運動持続時間は伸びていましたが、あえて糖質が枯渇した状態で2本目の練習を行っていた「Low脚」は、High脚の約2倍も長く動き続けられるようになっていたのです。

(High脚が平均11.9分だったのに対し、Low脚は平均19.7分持続)。

②:有酸素エネルギー回路の働き向上

トレーニング前後の筋肉を採取し、細胞レベルで何が起きているかを分析しました。

ターゲットとなったのは、有酸素エネルギーを生み出す細胞内の工場であるミトコンドリアの働きを支える酵素です。

まず1つ目が、クエン酸シンターゼ(CS)。有酸素エネルギー代謝(クエン酸回路)の全体的な活発さを示す代表的な酵素です。

このCS活性は両方の脚で増加しましたが、Low脚において明らかに際立って高い増加を示しました。

つぎに2つ目が、3-ヒドロキシアシルCoA脱水素酵素(HAD)。脂肪をエネルギーに分解する(β酸化)ときに必須となる酵素です。

このHADの活性は、毎日満タンで練習したHigh脚ではほとんど変化しなかったのに対し、低グリコーゲンで耐えたLow脚でのみ有意に向上していました。

③:筋肉中の糖質貯蔵量が向上

トレーニングをしていない安静時の状態で、筋肉の中にどれだけの糖質を蓄えておけるか(安静時筋グリコーゲン濃度)を調べたところ、これもLow脚でのみ有意な増加が認められました。

つまり、あえて糖質を枯渇させる環境を作った筋肉のほうが、結果として『より多くの糖質を溜め込めるようにしよう」と進化したのです。

エネルギー不足で走ると、逆にスタミナがつくワケ

エネルギー不足で走ると、逆にスタミナがつくワケ

運動能力も運動量も同じなのに、なぜ糖質が不足した状態で練習した脚のほうが、ここまで明確に持久力が向上したのでしょうか。

その鍵は、筋肉が受ける『ストレス(危機感)の大きさ』・『分子レベルの適応スイッチ』にあります。

①:筋肉が感じる『危機感』=適応のシグナル

体内に十分な糖質エネルギーが常に満たされている状態(High)は、筋肉にとっては非常に快適です。

快適な環境では、筋肉は「今の能力のままで十分対応できる」と満足してしまい、それ以上の進化を促す強力なシグナルが発信されにくくなります。

しかし、体内の糖質が枯渇した状態(Low)でさらに運動を強いると、筋肉は凄まじいストレス(危機感)に晒されます。

実際にこの実験でも、Low脚で運動しているときは、ストレスホルモンであるアドレナリンやノルアドレナリンの分泌量が、High脚のときよりも有意に高くなることが確認されています。

『このままだと、エネルギーが完全に底をついて動けなくなるぞ・・!』という生命的な危機を筋肉が感じることで、細胞内で「遺伝子の転写スイッチ」が強力にオンになります。

糖質を感知する細胞内のセンサーが、グリコーゲンの減少をトリガーとして、さまざまな代謝関連遺伝子を活性化させるためです。

②:脂肪を燃やす仕組みの進化

この適応スイッチがオンになった結果、筋肉は以下のような進化を遂げます。

  • 糖質が足りない⇒脂肪をメインエネルギーとして使おう!
  • 効率良くエネルギーを作るために、ミトコンドリアの性能を高めよう!
  • 糖質の貯蔵タンク(筋グリコーゲン)を増やしておこう!

マラソンにおいて、30km以降に急激に失速する最大の原因は、体内の糖質タンクの枯渇です。

人間が筋肉に蓄えられる糖質の量は限られており、普通に走っていれば30km前後で底をつきます。

しかし、この「Train-Low」によって脂肪をエネルギーとして引き出す能力(HAD活性)が高まっていれば、レース後半になっても糖質を温存することができ、結果として失速を防ぐことができるのです。

これが、持久力が実質的に「2倍」になったメカニズムです。

市民ランナーが押さえておきたいポイント

市民ランナーが実践に落とし込むためのアプローチ

さいごに、この論文の内容を市民ランナーが実践に落とし込むうえで押さえておきたいポイントについてまとめます。

論文そのままはNG!オーバートレーニングに注意

著者らも論文のディスカッションの中で明確に警告していますが、常に低糖質状態でハードなトレーニングを続けると、以下のようなデメリットが発生します。

注意すべきデメリット

  • 疲労が抜けにくくなる
  • オーバートレーニング症候群のリスクが高まる
  • ポイント練習の質が低下する
  • 結果として、最大酸素摂取量やスピード能力が低下する
  • 免疫力が低下し、体調を崩しやすくなる

現代のスポーツ科学において、この論文の知見は「Train-Low, Compete-High(練習では時々あえて糖質を抑えるが、試合や強度の高い練習では糖質を十分に満たす)」という、計画的な使い分け(ピリオダイゼーション)の形で取り入れられています。

走行距離をこれ以上増やせない市民ランナーが、安全かつ効果的にこの恩恵を受けるための具体的な実践例を2つご紹介します。

実践例①:週末のセット練習を取り入れる

論文内での『1日2回、間に絶食を挟む』という過酷なプロトコルを、一般のランナーが生活リズムの中でマイルドに再現する最もおすすめの方法が、週末のセット練習です。

セット練習の実践例

  • 土曜日(ポイント練習)

⇒ インターバル走やペース走を行い、筋肉中のグリコーゲンを消費させます。

  • 土曜日(食事コントロール)

⇒ 炭水化物を通常より少し控え、タンパク質・野菜中心の食事を摂ります。

  • 日曜日(Train-Low)

⇒ 朝食前の空腹状態で、軽めのロングジョグ(90〜120分程度、Eペース)を行います。

土曜日の練習で糖質が削られているため、日曜日の朝のジョグは、まさに論文の「2本目の運動」と同じような低グリコーゲン環境を擬似的に再現できます。

ジョグの強度は低くて構いません。低強度であっても、筋肉内が低糖質であれば、細胞内では激しいスタミナ強化のスイッチがオンになります。

実践例②:平日の朝イチ・朝食前ジョグ

平日のルーティンとして取り入れやすいのが、朝食前のジョグです。

前日の夕食後に何も食べずに就寝すると、朝起きたときには肝臓のグリコーゲンが減少しています。その状態で、朝食を食べずに水分だけをしっかり補給し、45〜60分程度の軽いジョグを行います。

脂肪燃焼優位の体質(ファットアダプテーション)を作ることが目的であるため、息が切れるようなペースで走る必要はありません。

気持ちよくお喋りができるくらいのイージーペースで走るだけで、脂肪代謝のスイッチを効率よく刺激できます。

いずれの実践例でも、低糖質でのランニングが終わった後は、速やかに炭水化物とタンパク質を補給して、筋肉のリカバリーを行ってください。

まとめ

まとめ

今回紹介した論文は、それまでの「エネルギーは常に満タンが良い」という常識を覆し、あえてエネルギーを枯渇させる時間(サイクル)を作ることが、筋肉のミトコンドリアや脂肪利用能力を劇的に進化させるという事実を証明しました。

月間走行距離は400〜450kmが限界・・

これ以上増やすとケガするかも・・

そんな風に、物理的なトレーニング量の限界に突き当たっているランナーの方こそ、この理論の実践価値があります。

毎日同じように糖質を満たして同じ距離を走るのではなく、週に1〜2回、意図的に「低グリコーゲン状態で走る日」を作ることで、走行距離を増やさずとも筋肉のスタミナ性能を劇的に引き上げることが可能です

ただし、自身の疲労度や故障の兆候、そして何より日々の体調とシビアに相談しながら、賢く「Train-Low」をトレーニングメニューに組み込んでみてください。

今回は以上です。最後までご覧いただき、ありがとうございました。

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