『月間走行距離は400km〜450kmくらいまで、これ以上は増やせないなぁ・・』
『レース後半に失速するのを、どうにか防ぎたいなぁ・・』
マラソンで自己ベストを更新するためにトレーニングを積み重ねる中で、一度はこのような壁にぶつかったことがあるのではないでしょうか?
走る距離を増やす、あるいは話題の厚底シューズを履くといったアプローチだけでなく、パフォーマンスをもう一段階引き上げるためのカギこそが、
栄養の摂り方
にあります。
今回は、スポーツ栄養学の世界的権威であるルイーズ・バーク氏らが発表したレビュー論文『Contemporary Nutrition Strategies to Optimize Performance in Distance Runners and Race Walkers(長距離ランナーと競歩者のパフォーマンス最適化のための現代的な栄養戦略)』をベースに、現代のトップランナーが実践している最新の栄養学を分かりやすく解説します。
本論文の知見を元に、明日からのトレーニングやレースで実践できる内容をお届けします。

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長距離走のパフォーマンスを決める『3つのカギ』

栄養戦略の具体的な話に入る前に、論文が指摘する「長距離種目(10,000m、ハーフマラソン、フルマラソン、競歩など)の成否を分ける生理学的要因」を整理しておきましょう。
論文では、長距離の成功は以下の3つの要素に強く依存していると述べています。
パフォーマンスを決める3つのカギ
- 最大酸素摂取量(VO2 max)
- 限界ペースの維持能力(代謝閾値 / 臨界速度)
- ランニングエコノミー
少し深掘りします。
①:最大酸素摂取量(VO2 max)
体内に取り込める酸素の限界値のこと。
エリート男性ランナーでは、70〜85(ml・kg・min)、女性では、55〜80(ml・kg・min)という高い値が、成功の天井(天井効果)を決めるとされています。
②:限界ペースの維持能力(代謝閾値 / 臨界速度)
最大酸素摂取量(VO2max)という天井に対して、どのくらいの高い出力を維持して走り続けられるかという能力です。
エリート選手の場合、マラソンを臨界速度の約96%という非常に高い強度で走りぬけます。
この閾値(LTペースなど)を超えると、体内の乳酸急増(代謝性アシドーシス)や、筋グリコーゲンの急速な枯渇が起こり、一気に疲労が引き起こされるとされています。
③:ランニングエコノミー
同じ速度で走るときに、どれだけ少ない酸素(エネルギー)で走れるかという指標です。
よく例えられるのが、『自動車の燃費』のようなイメージです。
フォームの美しさだけでなく、体内で「どの燃料を使っているか」によってもこの燃費は大きく変動します。
長距離ランナーの栄養戦略における究極のゴールは、『3つの能力を100%引き出し、エネルギー枯渇、低血糖、脱水、体温上昇といった失速原因(制限因子)を、レースの最後まで発生させないこと』に他なりません。
新常識『栄養のピリオダイゼーション』とは

『毎日、バランスの良い食事を一律に摂る』
これは、現代のシリアスランナーにとってはすでに古い常識かもしれません。
現在のスポーツ栄養学では、トレーニングメニューの目的(質や量)に合わせて、戦略的に食事内容を変化させる「期分け(ピリオダイゼーション)」という考え方が主流になっています。
論文では、主に以下の3つのアプローチを組み合わせることが推奨されています。
3つのアプローチ
- トレイン・ロー(Train Low)
- トレイン・ハイ(Train High)
- ガット・トレーニング(Gut Training)
それぞれ順番に見ていきましょう。
①:Train Low:あえて糖質を減らして走る
この主な目的が、脂質代謝能力(体脂肪を効率よくエネルギーに変える力)の向上、および細胞内のミトコンドリアの活性化(有酸素運動能力のベースアップ)です。
主に低強度のジョグ(EペースやLSDなど)で行います。
例えば、前日の夜に炭水化物を控えめにして、翌朝、朝食を摂る前の空腹状態でロングジョグに出かけるといった方法です。
体内の炭水化物(グリコーゲン)が枯渇した状態で運動すると、体は生き残りシグナルを発し、脂肪を燃焼させる酵素の働きを劇的に高めます。
②:Train High:糖質をフル充電して走る
主な目的は、インターバル走、レペティション、高強度のペース走(ポイント練習)において、極限までパフォーマンスを引き出し、狙った設定ペースを高い質で完遂することです。
練習の前日や数時間前から炭水化物を十分に摂取し、体内のエネルギーが満タンの状態で臨みます。
スピードを出す高強度運動になればなるほど、筋肉は酸素を多く必要とします。
炭水化物は、脂質に比べて「同じ量の酸素から、より多くのエネルギー(ATP)を生み出せる」という非常に優れた特性(高いエネルギー効率)を持っています。質の高い練習の時は、糖質をしっかり補給しておかなければ、筋肉が十分に動かず、本来狙うべき練習刺激を体に与えることができなくなってしまいます。
極端な糖質制限(ケトジェニック)の罠
「糖質を完全にカットして高脂質の食事を続ける(ケトジェニックダイエット)」について、論文内では明確に「パフォーマンスを低下させる」と警告されています。 確かに、3.5週間にわたり高脂質食を続けると、脂肪を燃焼させる能力は2.5倍にまで跳ね上がります。しかしその代償として、炭水化物をエネルギーにする経路がブロックされ、「ランニングエコノミー(燃費)」が著しく悪化することが実験で証明されています。
つまり、同じスピードを出すためにより多くの酸素が必要になってしまい、結果としてレース後半のラストスパートや、上り坂での切り替えといった「高強度な局面」でスピードが出せなくなってしまうのです。
③:Gut Training:胃腸の強化
主な目的は、レース本番で胃もたれや腹痛を起こすことなく、大量の水や糖質を吸収できるようにすることです。
週末のロングランやビルドアップ走の際、レース本番で使う予定のジェルや高濃度ドリンクを「あらかじめ本番と同じペース・同じ量」で摂取する練習を重ねます。
つまり、胃腸は筋肉と同じように「トレーニングによって鍛えることができる組織」なのです。
市民ランナーでも実践できるレース直前・当日のエネルギー戦略

ここからは、本論文のハイライトであるレース直前から本番にかけての具体的な食事・補給戦略を見ていきましょう。
本記事では、シリアスランナーに多い『体重60kgのランナー』を具体例として、論文が推奨するガイドラインに基づき数値を算出しました。
①:フルマラソン2日前〜前日
フルマラソン(42.2km)のように、体内のグリコーゲン枯渇が死活問題となる長時間に及ぶレースでは、事前の「グリコーゲン超貯蔵(スーパーコンペンセーション)」が極めて有効です。
現代のカーボローディングは、昔のような『一度完全に枯渇させてからドカ食いする』という過酷なものではありません。
「レース前の36〜48時間は、トレーニング量を落とすと同時に、体重1kgあたり10〜12gの炭水化物を毎日摂取する」というシンプルな方法にアップデートされています。
体重60kgのランナーに必要な1日の糖質量(理想値):600g 〜 720g
この糖質量について一般的な主食や食べ物に換算すると、以下のようになります↓
- 白ごはんの場合:約11〜13杯
- コンビニのおにぎり:約15〜18個
かぴまるいやいや!!そんなに食べれるワケないでしょ!!
このように思った方、正しいです(笑)。普通に考えて、こんなに食べれるワケありません(笑)。
この『体重1kgあたり10〜12g』というのは、超高強度で走り続けるトップランナーを想定した最高基準です。
今回は、私たち市民ランナーが自己ベストを目指すための「現実的な実践プラン」にカスタマイズしてみましょう。
現実的な実践プランについて(3ステップ)
目標タイムがサブ4〜サブ3レベルのランナーであれば、『体重1kgあたり7〜8g』でも、十分にレース後半のエネルギー切れを防ぐ効果があります。
体重60kgの市民ランナーの目標量:420g 〜 480g / 日
これなら、普段の食事に少し工夫を加えるだけで十分に達成可能な数値になります。
①:主食を白米やうどんにする(低残渣食の応用)
おかずでお腹をいっぱいにするのではなく、2日前からは主食中心の食事に切り替えます。
論文内でも強く推奨されているのが、食物繊維を徹底的に控える「低残渣(ていざんさ)食」です。
一般的には健康に良いとされる玄米や生野菜、海藻類はこの2日間だけはストップし、消化の早い「白米」「うどん」「食パン」「切り餅」を選びましょう。
食事メニューの例
- 朝:ご飯大盛り(糖質約80g)
- 昼:力うどん(餅2個入り)(糖質約100g)
- 夜:ご飯大盛り+うどん(糖質約130g)
これだけで、食事から約310gの糖質が確保できます。
食物繊維を減らすことで腸内がスッキリし、レース当日の体重をおよそ500g前後も物理的に軽量化できるメリットもあります。
②:間食に和菓子を取り入れる
市民ランナーのカーボローディングにおいて、間食は最強の味方です。
脂質が少なく糖質が凝縮されている「ういろう」「大福」「カステラ」が特におすすめです。
- みたらし団子3本or大福2個:糖質 約60〜70g
③:残りは飲み物から補給する
『これ以上固形物は入らないよ・・』という時の最後のひと押しは、スポーツドリンクや果汁100%ジュース(パルプなし)などの液体に頼りましょう。
胃を物理的に圧迫しないため、満腹でも楽に糖質を追加できます。
- スポーツドリンク(500ml)、100%果汁ジュース(2杯):糖質 約50〜60g
かぴまるこれで合計420g〜440g!糖質摂取量の基準はクリアだね!
②:レース当日の朝(スタート1〜4時間前)
当日の朝は、睡眠中に消費された肝臓のグリコーゲンを回復させ、エネルギーの供給を継続させるために、『体重1kgあたり1〜4g』を目安に糖質を補給します。
体重60kgのランナーの摂取目安:60g 〜 240g
タイムライン別の補給例
- スタート3時間前:うどん1玉+おにぎり1個(糖質約90g)
- スタート1時間前:エネルギーゼリー、ジェル1個(糖質約30g〜40g)
これで合計約120g〜130gの糖質を補給でき、お腹が重くなるのを防ぎながらエネルギーを満たせます。
③:レース中
ハーフマラソンなどの90分未満の短いレースであれば、レース中に大量の補給をする必要はなく、糖質を含んだドリンクで口をゆすぐだけの「マウスリンス(口内洗浄)」でも十分な効果があります。
口の中の受容体が糖質を感知するだけで、脳のコントロールセンター(中枢神経)が刺激され、「エネルギーがやってきた」と錯覚して主観的なきつさを軽減し、ペース維持を助けてくれます。
しかし、フルマラソン(2.5時間を超える耐久レース)では、話がまったく異なります。
最新のスポーツ栄養学のガイドラインでは、『1時間あたり75g〜90gの炭水化物を摂取すること』が、後半の失速を防ぎ最高のパフォーマンスを維持するために最適であると結論づけています。
- 理想の必要糖質量:約225g 〜 270g
- 一般的なスポーツジェル換算:1時間あたり2〜3個(約20分に1個)
かぴまるいやいや!!20分に1個ペースでジェルなんて、カラダが受け付けるワケないでしょ!!
実はこれも、トップランナーを基準にした「理想値」です。
走っている時間が長くなる市民ランナーがこれを真に受けてジェルを詰め込むと、内臓トラブルで逆に失速する原因になってしまいます。
現実的な補給プランについて
まずは、旧ガイドラインの基準でもある『1時間あたり45g〜60g』を目指すのが現実的かつ効果的です。
補給の例
- 体重60kgランナーの目標量:1時間あたり約45〜60g
- レース全体のジェル本数目安:4〜5本
『これならできそうかも・・!」と思えた方も多いのではないでしょうか。
加えて、胃もたれを防ぎつつエネルギーを最大化する実戦テクニックを2つご紹介します。
①:スポーツドリンクと組み合わせる
摂取目安量の糖質を、すべてドロっとしたエナジージェルで摂る必要はありません。
給水所に置いてあるスポーツドリンクと組み合わせることで、胃への負担を減らしながら、目安となる糖質を摂取できます。
②:ジェルは『果糖(フルクトース)』入りがおすすめ
単一の糖分(グルコースなど)だけだと、腸の吸収ルートが渋滞して胃もたれの原因になってしまうことが指摘されています。
市販のジェルを選ぶときは、『マルトデキストリン(グルコース系)』『フルクトース(果糖)』の両方がブレンドされているものを選んでください。
これだけで、複数の吸収ルート(輸送体)が同時に使われるようになり、胃痛のリスクを大きく抑えることができます。
まとめ:
トップ選手や最新のスポーツ科学が実践している栄養戦略は、非常に緻密で、論理的に計算されています。
『月間走行距離をこれ以上増やせない』
『練習内容の割にレース後半でいつも失速してしまう』
このような場合は、トレーニングの強度だけではなく、食事や補給の質とタイミングのコントロールに大きな伸び代が眠っています。
トレーニングの成果を本番で100%爆発させるか、それともエネルギー切れで無駄にしてしまうか。
それを決めるのは、あなたの「栄養戦略」です。
ぜひ、次のポイント練習やレースで、この科学的な数値を体感してみてください
今回は以上です。最後までご覧いただき、ありがとうございました。
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