かぴまる各メーカーから高機能ウェアがたくさん販売されているけど、実際のところ効果に差はあるのかな?どういう基準で選ぶのが良いんだろう?
今回は、こうした疑問に答えます。
- 論文の概要と実験デザイン
- 実験結果と主観的評価について
- 考察、まとめ
こんにちは、かぴまるです。
僕自身も月間350kmほど、サブ40(フルマラソン2時間40分切り)を目標にランニングを楽しんでいます。
近年の夏場のように30℃を超える環境下で行うトレーニングは、全ランナーにとって深刻な課題となっています。
というのも、暑さによる心拍数の急上昇や深部体温の上昇(生理的熱ストレス)は、ダイレクトにペースダウンや熱中症リスクへと直結するためです。
こうした中、スポーツウェア市場には、
圧倒的な吸汗・速乾性
着圧効果による体温調節の効率化
特殊加工による裏地冷却効果
といったように、メーカー各社は魅力的なキャッチコピーを掲げ、ランナーのパフォーマンス維持をアピールしています。
これらは、本当にカラダの熱ストレスを軽減し、パフォーマンスの維持に効果的なのでしょうか?
この疑問に対する論文を紹介します↓
本記事では、アスリートを対象に行われた厳密な実験データから導き出された『ウェア選びの科学的真実』について解説していきます。

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論文の概要と実験デザインについて

この研究の目的は、
トレーニングを積んだアスリートがやや厳しい暑熱環境(35℃、相対湿度30%)で長時間のランニングを行った際に、ウェア(トップス)の機能の差が『走行速度』『生理的熱ストレス(体温・心拍数等)』に与える影響を明らかにすることです。
被験者:20名のアスリート
本研究の信頼性を高めている大きな要因のひとつが、被験者のレベル感です。
実験には以下の20名の男性アスリートが参加しました。
被験者プロファイル
- ギリシャ代表級アスリート(4名)
- トレーニング経験のあるアスリート(16名)
かぴまるかなりのトレーニング経験・実力のある人が被験者になっているんだね!
ギリシャ代表級アスリート(4名)は、 3000m障害、5000m、フルマラソン、長距離サイクリングのナショナルチーム所属の選手です。
VO2max(最高酸素摂取量)平均値が 73.8 ± 2.2 mL/kg/min という、極めて高い持久的体力水準を誇ります。
その他16名のアスリートは、週走行距離80km以上 or 週5回以上のトレーニングを継続しているランナーで構成されています。
比較対象:4種類のウェアを使用
被験者はランダムな順番で、以下の4つの異なるテクノロジーを備えたTシャツ(すべて同色系、体表面積の約34%をカバー)を着用し、別々の日に実験に臨みました。
4種類のウェア
| ウェアの種類 | 素材構成 | 想定される機能、特徴 |
|---|---|---|
| 綿(コットン)Tシャツ | 綿 100% | 対照群(コントロール)。 吸湿性は高いが拡散・速乾性に乏しい伝統的素材。 |
| 吸汗速乾Tシャツ | ポリエステル 87% エラスタン 13% | 合成繊維を用いて汗を皮膚から生地表面へ素早く広げ、蒸発熱効果を高める定番構造。 |
| コンプレッション Tシャツ | ポリエステル 77% エラスタン 23% | 体に密着することで発汗効率と血流循環をサポートし、放熱を促進 |
| アルミニウムドット Tシャツ | ポリエステル 100% (背中裏ドット付) | 背中上部の裏面に高熱伝導性のアルミニウム粒子を配置し、ミニヒートシンクとして機能。 |
実験プロトコル:60分間トレッドミル走
実験は人工環境室(35℃、湿度30%、風速0.3m/sの非常に弱い多方向送風)にて行われました。
ランナーはトレッドミルの傾斜を1%(屋外走の空気抵抗に相当するエネルギー消費量)に設定し、VO2maxの70%に相当する強度で60分間ランニングを行いました。
走速度は呼気ガス分析器(間接カロリーメトリー)を用いて常にモニタリングされ、事前に定められたトレーニング強度を維持するようリアルタイムで調整されました。
なお、走行中の水分補給は禁止され、純粋な生体応答が追跡されました。
実験結果:ウェアの種類による差は『ほぼゼロ』

60分間のトレッドミル走で得られた客観的な生理データは、多くのランナーやメーカーの期待を裏切るものでした。
結論から言えば、4種類のウェア間で、パフォーマンスおよび生理的熱ストレスを示すほぼすべての主要指標に統計的な有意差($p > 0.05$)は認められませんでした。
①:走行スピード(パフォーマンス)への影響
VO2max 70%を維持するために設定された平均走速度は、10.7 ± 1.6 km/h でした。
走行時間に伴うペースの維持能力や落ち込み(ドリフト)において、綿Tシャツを着ていても、アルミニウムドット付きやコンプレッションを着ていても、まったく差が出ませんでした。
②:深部体温と皮膚温
深部体温(Core Temperature)の平均値は38.1 ± 0.3℃、最高値は 39.0 ± 0.4℃ まで上昇しました。
しかし、着用した4つのウェア間で差異はありませんでした。
平均皮膚温(Skin Temperature)の平均値は 34.9 ± 0.6℃ であり、こちらも4つの条件下で差異はありませんでした。
③:心拍数と熱流束
平均心拍数は最高心拍数の約80 ± 4%(140〜160bpm台)、最高心拍数は89 ± 5% に達しましたが、どのTシャツを着用しても心拍応答に差は生じませんでした。
また胸部、腹部、僧帽筋、広背筋の4箇所で測定された皮膚表面からの放熱量(熱フラックス)についても、4つのウェア間で差異は見られませんでした。
④:体水分損失量と脱水率
60分間のトレーニングによる体重減少率(汗としての水分損失)は、平均して体重の 1.9% ± 0.3%(約1.1%〜2.6%)でした。
発汗量や尿比重(USG)の変化量においても、特定のウェアが発汗を抑えたり、蒸発を劇的に促進したりした痕跡はありませんでした。
かぴまるもっと色々ちがいがあると思ったけど、この結果にはビックリだ!!
主観的評価:ランナーたちが肌で感じたこととは

生理的なデータ(体温や心拍数)に差が出なかった一方で、ランナーたちが肌で感じた『主観的なフィーリング』においては、いくつかの興味深いトピックが見られました。
①:主観的指標(暑さ・疲労度)
実験に参加したランナーにおいて、
主観的快適性(Thermal Comfort)
暑さの感覚(Thermal Sensation)
自覚的運動強度(RPE / Fatigue)
には、ウェアごとの明確な差はありませんでした。
つまり、『どのウェアを着ていても平均的に暑く、ややきつい』と感じていたことになります。
②:ウェアごとの『不快感の分布』
60分間のトレーニング後、カスタムアプリを用いて『冷却機能が不十分だと感じた具体的なウェアのエリア』を被験者にマーキングさせました。
すると、ビジュアル的にウェア間のちがいが明らかになりました。
ウェアごとの『不快感の分布』
- 綿Tシャツ & アルミニウムドットTシャツ
⇒ 胸部や背中にかけた広範囲(綿:9.2 ± 22.7%、アルミ:5.4 ± 13.8%)
- 吸汗速乾 & コンプレッションTシャツ
⇒ エリアの割合が著しく小さい。『主観的な冷却感・サラサラ感』に優れている
つまり、『カラダの深部体温やパフォーマンスには差がないが、着心地や皮膚感覚としては吸汗速乾やコンプレッションの方が圧倒的に心地よい』 というのが、ランナーたちの本音だったのです。
【考察】なぜ高機能ウェアでも生理的な差が生じないのか

メーカーが多大な開発費を投じた冷却テクノロジーが、なぜ生体データに反映されなかったのでしょうか?
論文内では、以下の3つの生理学的・実験的理由が挙げられています。
3つの生理学的・実験的理由
- ヒトの優れた体温調節機能の優位性
- マネキン実験と人体実験との違い
- 無風状態(風速0.3m/s)という実験条件
それぞれ順番に見ていきましょう。
①:ヒトの優れた体温調節機能の優位性
トレーニングを積んだシリアスランナーは、暑熱下における
大量の汗を素早くかく能力
皮膚血管を拡張させて熱を逃がす能力
が非常に高いレベルで発達しています。
身体自体の強力な放熱メカニズムが前面に出るため、ウェアの生地素材によるわずかな熱伝導率や拡散性の違いは、人間の生理応答によって簡単に打ち消されて(相殺されて)しまうのです。
②:マネキン実験と人体実験との違い
ウェアの冷却性能を示すデータの多くは、発汗も運動もしない「サーマルマネキン(銅製の人形)」を用いて測定されています。
しかし、生きている人間は動き、筋肉を収縮させ、可変的に汗をかきます。
マネキン実験で確認された微小な熱抵抗の差が、人間の実走行時に同様のメリットをもたらすとは限らないことが証明されました。
③:無風状態(風速0.3m/s)という実験条件
今回の実験は室内の無風に近い状態で行われました。
屋外走行時のように「走速に応じた強い走行風」が加わると、吸汗速乾素材に染み込んだ汗が風によって急速に蒸発し、対照的な綿Tシャツとの間に差が生まれた可能性は残されています。
しかし、風が弱い環境下では、どのウェアであっても限界に達します。
まとめ:暑さ対策の実用的な結論

本研究の知見をもとに、ランナーが押さえておくべき実用的なアドバイスをまとめます。
実験のポイントまとめ
- 『着るだけで〇〇』という魔法のウェアは存在しない
- 「生理的効果」よりも「精神的快適性(着心地)」で選ぶ
- 真の暑さ対策は「内的順応」と「補給戦略」がポイント
1.『着るだけで〇〇』という魔法のウェアは存在しない
高価な冷却テクノロジー搭載ウェアに過度なパフォーマンス向上を期待するのは、科学的ではありません。
「着るだけで〇〇」という謳い文句にダマされないように注意しましょう。
2.「生理的効果」よりも「精神的快適性(着心地)」で選ぶ
たとえば綿Tシャツの場合、汗を含んで重くなったり、肌に張り付くことで主観的な不快感を増幅させます。
心拍数は変わらなくても、べたつきを防ぐ『吸汗速乾』やフィット感の高い『コンプレッション』といった機能性ウェア選ぶことで、走りに集中できる精神的アドバンテージが得られます。
あれこれ難しく考えずに、快適性や着心地で選ぶのがおすすめです。
3.真の暑さ対策は「内的順応」と「補給戦略」がポイント
体温の上昇を抑えるために真に有効なのは、ウェアの選定ではありません。
暑熱順化と呼ばれる内的順応、トレーニング前に行うプレクーリング(アイススラリーの摂取等)、そして適切なトレーニング中のこまめな補給がポイントです。
今回紹介した論文は、
『快適だと感じるウエアを着れば、それが最適解だ』
といったように、ウェア選びに自由を与えてくれる朗報でもあるでしょう。
自分の感覚(フィーリング)を大切に、適切な水分管理・暑熱対策を行いながら、これからのトレーニングを楽しく乗り切っていきましょう!
今回は以上です。最後までご覧いただき、ありがとうございました。
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