こんにちは、カピまるです。
今回は、「脊髄損傷に対する作業療法」をテーマに解説していきます。

交通事故とかスポーツ外傷でよくニュースで見る気がする!
皆さんの中にも、ニュース等で耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
本記事では、脊髄損傷に関する基礎的な部分について、症状や評価の概要についてまとめます。
是非最後までご覧いただき、今後の学習に役立てて下さい。
以下の記事も併せてご覧下さい↓↓
脊髄損傷の定義

脊髄というのは、「頸髄」「胸髄」「腰髄」「仙髄」から構成されます。
脊髄損傷とは、交通事故や転落といった高エネルギー外傷や高齢者の転倒等を原因として生じる、脊髄の損傷のことです。
損傷した高位や部位、損傷の程度(完全損傷、不全損傷)によって異なる運動麻痺や感覚障害、膀胱直腸障害等を引き起こします。
脊髄損傷の受傷原因として多いのは、
- 外傷(高エネルギー外傷)
- 高齢者の転倒
の2つと言われています。
- 交通事故
- 労働災害
- スポーツ外傷(プールの飛び込み、自転車競技での転倒・打撲等)
- 高所からの転落(労働災害、自殺企図等)
- 加齢による骨密度の低下
- 骨粗鬆症の合併
また脊髄損傷は、主に20代前半と50歳代後半、そして高齢者において多く生じます。
多くの場合、脊柱の脱臼骨折や破裂骨折に伴って生じます。
しかし高齢者においては、非骨傷性脊髄損傷によって受傷することもあります。
評価すべき項目

脊髄損傷に対する作業療法評価項目は、以下のとおりです。
- 医学的情報およびその他の情報収集
- 面接
- 観察
- 身体機能検査
- 日常生活活動(ADL)の評価
- 社会参加の評価
各検査における留意点について解説するまえに、注意点についてご確認ください。
- 各職種で類似した検査を行う場合、情報を共有する必要があります
- 余計な身体的・心理的負担を与えないよう最大限配慮しましょう。
1.医学的情報およびその他の情報収集
情報収集すべき内容は、脊髄損傷の発生原因によって異なります。
- 外傷による脊髄損傷の場合
- 疾患による脊髄損傷の場合
この2つの場合について考えていきます。
- 事故の原因
- 事故に伴う損傷の種類(CT、MRI所見)
- 医学的な処置(手術の有無、固定方法)
- 脊髄以外の外傷
- 事故発生時からの経過
- 疾患名
- 発症当時の症状
- 既往歴
- 現在の治療内容(薬物療法、手術の有無等)
そしてこうした内容について、主にカルテから情報収集を行います。
特に急性期においては、全身状態の管理が最優先されます。
- 呼吸状態
- 排痰方法
- 発熱の有無
- バイタル
この4つについて、必ず確認しましょう。
さらにベッドサイドで介入を行う際には、
- 褥瘡の有無と病棟での予防法
- 起立性低血圧の状態
- 痛みの程度
この3つについても、確認・把握しておきましょう。
2.面接
面接では、主に以下の項目について確認します。
- 家族構成
- 家庭での役割
- 趣味活動
- 社会的関心の有無
- 地域社会における役割
- 学歴や職歴
- 職場での働き方、職場環境について
- 事故発生時の状況
- 今後のニーズ
面接時に重要なことは、作業療法士という専門職の立場から具体的に質問に答えることです。
対象者の方を尊重するとともに傾聴の姿勢は欠かさず、信頼関係の構築を図りましょう。
- 面接時の態度や話し方は、今後のリハビリを大きく左右します。
- くれぐれも相手に不快に思われることがないよう、十分注意しましょう。
3.観察
観察を行う上で、以下の4つは注意深く行いましょう。
- 血圧
- 体温
- 表情や顔色
- 呼吸の様子
急性期には、特にこの4つが顕著に変化しやすい傾向にあります。
そのため訓練前後における観察は、欠かさず行いましょう。
加えて観察する必要があるのは、対象者の方の随意運動です。
急性期においては、「ナースコールの使用」や「食事の自立」が大きな課題となります。
対象者の方の随意運動は、今後の支援方法を決定する上で重要な手がかりです。
- 「日常生活のどの場面で福祉用具が必要か」
- 「そのための訓練として何を行うべきか」
作業療法士として対象者の方と関わる上で、これらは欠かせない情報なのです。
4.身体機能検査
脊髄損傷では、症状を呈する領域はデルマトームに従っています。
そのため症状のある領域や種類について調べることで、損傷高位と障害高位を推測することが出来ます。
身体機能検査は、以下のとおりです。
- CT、MRIを用いた画像診断
- 関節可動域測定
- 筋力検査
- 知覚検査
- 腱反射及び筋緊張の検査
- 上肢機能検査
5.日常生活活動(ADL)の評価
ADLの評価には、Barthel Index(BI)、機能的自立度評価法(FIM)が使用されます。
それぞれの評価について、以下にまとめてあります↓↓
また脊髄損傷患者には、脊髄障害自立度評価法(spinal cord independence measure : SCIM)が使用されます。
この評価様式には、脊髄損傷患者にとって重要な「呼吸」「排痰方法」に関する評価項目が含まれています。
それぞれの項目は、以下のとおりです。
- 食事(切る、容器を開ける、飲み物を口に注ぐ、食べ物を口に運ぶ、コップを持つ)
- 入浴(頭と体を石鹸で擦って洗う、乾かす、蛇口の開閉)A.上半身、B.下半身
- 更衣(衣服、靴、装具の着脱)A.上半身、B.下半身
- 整容(手洗い、洗顔、歯磨き、整髪、髭剃り、化粧)
- 呼吸
- 排尿管理
- 排便管理
- トイレの使用(会陰部の清潔、使用前後の衣服の扱い、ナプキンやオムツの使用)
- ベッド上での姿勢変換と褥瘡予防動作
- 移乗:ベッド-車いす(ブレーキ操作、フットレスト跳ね上げ、アームレスト着脱)
- 移乗:車いす-トイレ、浴槽
- 屋内の移動
- まとまった距離の移動(10~100m)
- 屋外の移動
- 階段昇降
- 移乗:車いす-車(車への/からの乗り移り、車いすの積み降ろし)
- 移乗:床-車いす
SCIMは、脊髄損傷者のADL方法に合わせて呼吸、排尿・排便管理、移乗方法、電動車いすによる移動等について点数化することができます。
そのため、介入後の効果判定や調査にも用いられます。
6.社会参加の評価
リハビリテーションの最終目標は、退院後に個人の生活状況に合わせた社会生活を送ることです。
そのため退院時評価として、その方の社会活動に関して評価を行う必要があります。
評価する項目としては、以下のとおりです。
- 公道までの経路
- 駐車場と自宅周辺の道路状況
- トイレや浴室、居室の構造
- 経済状況
- 家族の意見
- 地域における社会福祉制度に関する情報
- 職場や学校生活において必要とされる活動について
脊髄損傷者の作業療法は、決して病院内だけで行われるものではありません。
社会参加という視点を踏まえて評価を行うことが重要です。
参考:使用する評価様式について

身体機能検査で使用する評価様式について、参考までにご紹介します。
◎ASIAの神経学的評価
ASIA( American Spinal Injury Association :米国脊髄損傷協会)が提唱した脊髄損傷の神経学的分類基準です。
国際的な評価様式として、脊髄損傷の評価には必ず使用されます。

この検査では、運動機能スコアと知覚機能スコアを算出します。
この得点から神経損傷高位、機能障害スケール、臨床症状分類を評価することが出来ます。
運動機能スコアは、C5~S1までの10脊髄筋を代表する筋(key muscle)について、0~5の6段階で評価します。
知覚機能スコアは、触覚と痛覚を正常・鈍麻・脱失の3段階で評価します。
検査は、以下のC2~S4-5髄節支配の28領域における検査する点(key sensory point)で行います。
髄節 | key sensory point |
C4 | 肩峰 |
C5 | 腕橈骨筋起始部 |
C6 | 母指球 |
C7 | 中指球 |
C8 | 小指球 |
T4 | 乳頭高位 |
T6 | 胸骨剣状突起高位 |
T10 | 臍高位 |
L1 | 股内転筋起始 |
L2 | 大腿内側中央 |
L3 | 膝蓋骨内側 |
L4 | 内果 |
L5 | 足背内側 |
S1 | 踵外側 |
S2 | 膝窩 |
S3 | 座骨結節 |
S4-5 | 肛門皮膚粘膜移行部 |
得られた評価結果から、機能障害の重症度スケール(ASIA Impairment Scale)を用いて、重症度や臨床症候群の判定を行います。
段階 | 内容 |
A=完全 | S4-5選髄節の運動・感覚機能の欠如 |
B=不全 | 運動機能の欠如 感覚機能は神経学的レベルからS-5仙髄節にかけて残存 |
C=不全 | 運動機能は神経学的レベル以下で残存 標的筋群の大多数はMMT3以下 |
D=不全 | 運動機能は神経学的レベル以下で機能残存 標的筋群の大多数はMMT3かそれ以上 |
E=正常 | 運動・感覚機能障害は完全に回復 反射の異常はあってもよい |
ASIAの機能評価は、主に予後予測や機能変化の評価に使用されます。
作業療法士として関わる上では非常に重要な情報となるため、評価の意味については理解しておきましょう。
◎ザンコリの四肢麻痺上肢機能分類(完全損傷)
頸髄は、一髄節の中でも髄節の上位と下位では支配筋が異なります。
一般的には、以下のザンコリ(Zancoli)の分類が評価に使用されます。

上記の検査は、基本的に徒手筋力検査(MMT)に従って行います。
※検査肢位を正しく取れない場合は、体幹を安定させ代償動作に配慮した上で測定を行います。
- 急性期~回復期は、部分的に機能回復が見られる時期です。
- そのため、上肢機能検査は定期的に行う必要があります。
さいごに
本記事では、「脊髄損傷に対する作業療法」をテーマに、症状と評価の概要について解説しました。いかがでしたでしょうか。
作業療法士として脊髄損傷の方と関わる機会は、それほど多くないかもしれません。
しかし臨床で働く上では、知っておいて損はありません。
本記事を、知識の整理と今後の学習に役立てていただければ幸いです。
コメント